目次
「叢書グローバル・ディアスポラ」刊行にあたって
序論(宮治美江子)
I 民族国家の成立を契機としての被害者ディアスポラ
第1章 パレスチナ人ディアスポラ(臼杵陽)
第2章 越境と離散のクルド人(山口昭彦)
第3章 古い移民、新しい移民──アルメニアからの移民(吉村貴之)
II 革命の結果としての被害者ディアスポラ
第1章 中央アジアのムハージル(小松久男)
第2章 アメリカのイラン人──ロサンゼルスのイラン人ディアスポラを事例に(中西久枝)
III 労働ディアスポラ──出身地とのネットワークを中心に
第1章 マグリブからフランスへのディアスポラ──アルジェリア移民の事例から(宮治美江子)
第2章 トルコ人のドイツへの移民(中山紀子)
IV 交易ディアスポラと植民ディアスポラ
第1章 レバノン系・シリア系移民ディアスポラを考える(宇野昌樹)
第2章 南アラビア、ハドラマウト地方出身移民の変遷(新井和広)
第3章 オマーンと東アフリカ間の移民──帰還移民を中心に(大川真由子)
索引
前書きなど
序論(宮治美江子)
(…前略…)
本巻の構成
これらの広大な中東地域の、しかも歴史の絡んだ複雑な現象であるディアスポラは、じつに多様であり、それらをどのように、区分するかは難しいが、一応ここでは、ロビン・コーエンの分類も取り入れながら、大きく四つに分けてみた。この分類は多分に便宜的なものであることをまずお断りしておきたい。例えば、アルメニアの事例は、歴史的な経緯の中では第II部にも第III部にも入りうる。
まず、第 I 部は、「民族国家の成立を契機としての被害者ディアスポラ」で、ここでは、コーエンの類型でも典型的な事例としてあげられている、パレスチナ、クルド、アルメニアが取り上げられる。第II部は「革命の結果としての被害者ディアスポラ」として、中央アジアとイランの事例である。第III部は「労働ディアスポラ」で、現代の労働ディアスポラの典型ともいえるアルジェリアとトルコの例が取り上げられる。しかし、マグリブ(西アラブ、北アフリカ)人、とくにここで取り上げられるアルジェリアのディアスポラの人々は、自分たちを当然フランスによる植民政策の被害者だと考えている。とくに第一次世界大戦前後から渡った人々は、「祖国フランスを守るために」最前線の戦場に送られ、軍需工場で使われ、戦後はフランスの復興を担い、独立戦争の後に渡った人々も、国の中枢を握っていた植民者が、あらゆる資材もろとも引き上げ、焦土と化した国の中では、まともな働き口をみつけるのは難しく、彼らとて、彼らの言葉に従えば「犠牲になった世代」なのだ。第IV部は「交易ディアスポラと植民ディアスポラ」、ここではレバノンとハドラマウト、そして、オマーンの例が取り上げられる。オマーンは植民ディアスポラだが、交易の役割も大きい。
(…中略…)
第IV部は交易ディアスポラと植民ディアスポラである。もともと第2節でも述べたように、中東地域は、地中海とインド洋、さらにはマラッカ海峡を越えて、東アジアにまでを結ぶ、海の道や、中央アジアを越えて、陸路でもアジアにまで伸びる商業・交易ルートが発達し、交易ディアスポラは、イスラームの歴史とも重なり、古くからあった。しかしここで取り上げられる事例はそんなに古い話ではない。
(…後略…)