目次
まえがき
第1章 クオータは平等社会へのエンジン
1 女性四〇%内閣の衝撃
2 ブルントラント首相と会見
3 クオータを初めて実行させた女性
4 クオータを必要とした政治的土壌
第2章 虐げられた時代
1 国立女性博物館を訪問
2 自己決定権を求めて
3 支配者が使う五つの手口
第3章 女性の政治進出でこう変わった
1 保育園待機児童いまやゼロ
2 鉄は熱いうちに打て
3 首相もとったパパ・クオータ
4 離婚と子どもの救済
5 女性最多市議会を探訪
第4章 自信をつけたノラたち
1 女性初! 南極点無支援単独踏破
2 経済界に女性重役ラッシュ
第5章 ルポ・国政選挙2009
1 七党中四党が女性党首
2 髭と賃上げ
3 小さな地方の大きな役割
4 政治をタブーにしない教育
5 新ノルウェー人と選挙
第6章 100年遅れを挽回するには
注・参考文献
年表――ノルウェー女性の闘いの歩み
あとがき
前書きなど
まえがき
ノルウェーの文豪イプセンが戯曲『人形の家』を世に出したのは、一八七九年であった。
弁護士の夫は、妻ノラを「うちのヒバリ」と呼んで可愛がった。しかしノラには隠し事があった。病気だった夫を救うため、借用証書にニセのサインをしてお金を工面した。妻は、夫の許可なしには借金をする権利すらなかった時代のことだ。
偽署を知った夫は、ノラを犯罪者とののしり、「おれがお前の犯罪行為に加担していたと世間から疑われるんだ」と激高する。
夫の愛は、「寄る辺ないちっちゃな赤ちゃん」への愛であったと、ノラは悟る。そして「私は、何よりもまず人間です。あなたと同じくらいに」と言い残して家を出てゆく。夫と子どもを捨てて。
家出をしたノラのその後について、イプセンは何も語っていない。
もしかしたら、女性参政権獲得運動をしたかもしれない。既婚女性の権利獲得のために法律改正運動をしたかもしれない。マッチ工場で働き、賃上げのストに加わったかもしれない。女性の入学が初めて認められた大学で、法律を勉強したかもしれない。
ノラが家出をして一三〇年。いまやノルウェーの男女平等は世界最高水準にある。
そんなオスロの町で、二〇〇九年夏、私はおもしろい女性のポスターを見つけた。
口髭をつけた女性が意味ありげに微笑んでいた。スローガンは「ひと筆で賃金格差を減らせますよ」。髭は男の象徴だから、女性の低賃金を上げるには男になるしかないのか、と訴えているようだった。
ノラの末裔たちは、まだ社会変革の手綱を緩めようとしていなかった。でも、今度は、髭をつけて、皮肉たっぷりに。
男尊女卑の国から抜け出せないこの日本で、
女性解放を求めて頑張るあなたに、
女性議員が一人もいない四四三自治体のどこかで暮らすあなたに、
ノラたちのユーモアあふれる闘いをおすそわけしたい。