目次
はしがき
序論 国際理解教育における「博物館-学校-学会」の連携(中牧弘允・森茂岳雄)
第 I 部 博学連携による国際理解教育の基礎理論
1章 博物館からみた博学連携(中牧弘允)
2章 学校からみた博学連携(森茂岳雄)
3章 学会からみた博学連携(多田孝志)
第 II部 博学連携による国際理解教育の授業実践
序章 モノが育てる異文化リテラシー(高橋順一)
1章 アウトリーチ教材で広がる教室実践
序 博物館から教室へ(森茂岳雄)
1 「みんぱっく」――ツール開発とミュージアム・リテラシー(佐藤優香)
2 「異文化発見キット」――利用者と支援者との対話(高橋順一)
3 「ニッケイ移民トランク」――グローバル教育と多文化教育をつなぐ(森茂岳雄・中山京子)
4 アウトリーチ教材を用いた博学連携実践(居城勝彦)
2章 素材から出発する授業実践
序 素材から教材へ(藤原孝章)
1 願いをこめた仮面をつくろう――鑑賞と表現の循環(佐藤優香・八代健志)
2 仮面を使った教材開発――異文化共生社会に生きる(秋山明之)
3 民博展示と世界史カリキュラム(田尻信壹)
4 文化祭でつくるミニ博物館(木村慶太)
5 民博展示とプロジェクト学習(林原慎・加藤謙一)
3章 企画展を生かした授業実践
序 企画から活動へ(織田雪江)
1 「弁当からミックスプレートへ」(1)――授業実践に生かす(森茂岳雄・中山京子)
2 「弁当からミックスプレートへ」(2)――クラブ活動に生かす(織田雪江)
3 民博オセアニア展示――修学旅行の事前学習に生かす(柴田元)
4 「みんぱくキッズワールド」――総合的学習に生かす(古川岳志)
5 「多みんぞくニホン」――社会科の授業に生かす(織田雪江)
第III部 博学連携による国際理解教育の教員研修
序章 研究から研修へ(中山京子)
1章 博学連携による教材・カリキュラム開発支援
1 フィールドワークを生かした教材開発(大津和子)
2 開発教育(ESD)の教材開発(藤原孝章)
3 カリキュラム開発支援(今田晃一)
2章 民博研究者との連携による教員研修
1 パンダナス物語(中山京子)
2 竹から音が生まれるとき(居城勝彦・八代健志)
3 ひとかけらのチョコレートから(織田雪江)
4 割り箸で海図をつくろう(田尻信壹)
5 楔形文字で名前を書こう(森若葉)
3章 討論教員研修ワークショップをつくる
第IV部 博学連携による国際理解教育の実践課題
1章 展示をつくる、展示をつかう――民博オセアニア展示の試み(林勲男)
2章 ボランティアによる博学連携――社会連携の視点(宇治谷恵)
3章 意味をつくりだす学びのデザイン(上田信行)
4章 博学連携の課題――相互メリット再考(小笠原喜康)
資料 博学連携みんぱく教員研修ワークショップのプログラム
あとがき
事項索引
人名索引
前書きなど
はしがき
博学連携、つまり博物館と学校の連携は21世紀の課題として浮上した。それまでは博物館は博物館、学校は学校という具合に、それぞれの道をあゆんでいた。もちろん博物館のほうでは学校団体を歓迎していたし、学校側も博物館見学を軽視していたわけではない。しかし、博物館に生徒を連れていっても、自由見学にして生徒の自主性にまかせ、せいぜいワークシートの記入や感想文の提出を義務づけるくらいで済ませていた。博物館側も子ども用にパンフレットをつくるぐらいが、関の山だった。そうした光景や対応はいまでも続いているし、それ自体に非があるわけではない。
だが、2002年の「総合的な学習の時間」の創設を契機に博物館と学校の連携が積極的に模索されるようになった。従来の社会科教育における歴史博物館や郷土資料館、理科教育における科学館、あるいは美術科教育における美術館の活用にとどまらず、広く博学連携がおこなわれるようになり、関連する出版物もいくつかあらわれた。しかし、これらの出版物の多くは、博物館側からの学校教育への提案であったり、学校教育からの博物館利用の提案であったりしたが、その性格は研究もしくは実践に偏ったものであった。
そこで、博物館関係者と学校教育関係者が2003年度から5年あまりの歳月をかけ、国際理解教育をめぐる議論と実践をとおして博学連携の理論を構築し、その実践を精緻なものに仕上げようと、共同研究を立ち上げワークショップをおこなってきた。そして、その成果を、博学連携の現時点における集大成として出版することを企画した。本研究実践活動は、大阪府吹田市の万博記念公園内に立地する国立民族学博物館(以下、「民博」と略)を舞台とし、文化人類学者、博物館教育専門家、教育学者、学校教員が集って展開してきたものである。民博は世界の諸民族の社会と文化を展示する日本最大の博物館であり、世界有数の民族学〈文化人類学、社会人類学〉の研究センターでもある。その意味で国際理解教育の宝庫といっても過言ではない。われわれの志としては、「博学連携による国際理解教育の最高峰」をめざそうとした。
他方、本企画のもととなった民博の共同研究の成果である森茂岳雄編『国立民族学博物館を活用した異文化理解教育のプログラム開発』(国立民族学博物館調査報告56、2005年)は、民博ミュージアムショップにおいて一般販売されていたが、好評のため完売し、現在は品切れとなっている。本書はその欠をおぎなうものとしての意義も有している。
さらに、本書には民博と、会員に現職教員が多い日本国際理解教育学会(会長:多田孝志)による共催企画の教員研修ワークショップ(2005年から毎年夏に民博で開催)の成果がふんだんに盛り込まれている。博学連携の研究と実践において、博物館と学校だけでなく学会が連携して相互啓発事業をおこなうことは特筆すべきことである。本書は、その意味で「博-学-学連携」とでも言うべき研究の成果であり、この点が大きな特色のひとつとなっている。
その結果、本書の内容は民博をフィールドにした記述に偏っているが、もちろんそこにとどまるものではない。それぞれの博物館や教育現場において、独自の取り組みを喚起するようなインスピレーションに満ちたものであることを念願している。ただし、本書の実践例を模倣する必要はまったくないし、かえってそれはクリエイティビティのさまたげになるかもしれない。あらたな取り組みにこそ、われわれの期待は込められている。「新しい学びをデザインする」と副題にあるのは、そのことを意識したからでもある。
以上のように、本書の発刊により博学連携研究による国際理解教育の理論的進展がはかられ、実践事例を広く共有することができれば、これに勝るよろこびはない。21世紀の博物館と学校が多文化共生社会に必要な資質・能力や技能を高める教育実践を共創し、さらにそれが飛躍的に発展・深化することを心から願っている。
編者