目次
はじめに
第1章 移民を授業する
第1節 グローバル時代の移民学習−グローバル教育と多文化教育をつなぐ−
第2節 移民学習を支える教材の開発
第3節 アメリカにおける日系移民学習のカリキュラム開発−SPICE「日本人移民とアメリカス」を例に−
第4節 社会科教科書における日本人移民・日系人に関する記述の変遷−グローバル時代の移民教材に向けて−
第2章 小学校における授業づくり
第1節 Let's 盆ダンス−踊ることをとおして学ぶ日系文化のハイブリッド化−
第2節 ハワイで暮らす日系人から見た第二次世界大戦
第3節 ブックトーク−日系アメリカ人の経験を読もう−
第3章 中学校における授業づくり
第1節 日系アメリカ人の文化・歴史・市民権から学ぶ−多様な人々が暮らすハワイから−
第2節 演劇的手法で学ぶ日系人の歴史−日系人強制収容を体験する授業−
第3節 日本人移民・日系アメリカ人の経験から学ぶ−あなたの知らないハワイ−
第4節 和太鼓アンサンブルをつくろう−日系人和太鼓から考える日系人のアイデンティティ−
第5節 リトルトーキョーの地域学習から移民学習へ
第4章 高等学校における授業づくり
第1節 世界史単元「グローバル化と移民−日系人の体験をとおして−」の開発
第2節 日系人たちのことば−レシテーション活動をとおした国際理解教育−
第3節 海を渡る日系移民−地域の多文化共生を考える−
第5章 大学における授業づくり
第1節 専門科目「日系人論」で学ぶ−日本語教師をめざす学生の変容−
第2節 教職科目「総合演習」で日系人について学ぶ
第3節 移民の体験をカルタに−ケータイでカルタづくりを教職科目で実践して−
第6章 日系アメリカ人へのインタビューと授業づくり
第1節 日系アメリカ人の個人史をつむぐ
第2節 インタビューを用いた授業づくり
第7章 移民系博物館における教育活動と教員研修
第1節 全米日系人博物館における学習プログラムの開発と実践
第2節 ハワイ日本文化センターの教育活動とアウトリーチ教材の開発
第3節 授業づくりにおける海外移住資料館の活用と教材開発
第4節 海外移住資料館における教員研修の意義と可能性
第5節 移民系博物館における教員研修のプログラム開発と評価
付章 授業づくりに役立てる
1 読み物教材:アメリカに生きる日系人のあゆみ
2 社会科教科書における日本人移民・日系人に関する記述一覧
3 日米の移民系博物館ガイド
4 日本人アメリカ移民・日系アメリカ人関連年表
5 日本人アメリカ移民・日系アメリカ人に関する参考図書・映画
特別寄稿1 南米の日本人、日本の南米人−カレンダーによる授業に向けて−
特別寄稿2 21世紀の人間形成に向けた学習論と移民学習
あとがき
コラム1 戦前の教科書の中の日本人移民
コラム2 ハワイの盆ダンス
コラム3 国立天文台ハワイ観測所
コラム4 ハワイジャパニーズセンターの建設
コラム5 ハワイ日系人が生み出したメニュー
コラム6 アメリカ日本人町の変貌
コラム7 サンノゼ日系人博物館の改築
コラム8 ロサンゼルスの二世ウィーク
コラム9 小さな漁村の「アメリカ村資料館」
コラム10 ハワイ島の日系人墓地
コラム11 沖家室探訪
コラム12 プランテーションビレッジの豊富な教材
コラム13 ハイブリッドな遺産としてのHapa
コラム14 移民の島、周防大島を訪ねて
前書きなど
はじめに
1908(明治41)年6月18日、781人の日本人移民を乗せた笠戸丸がブラジルのサントス港に入港した。それから今年でちょうど100年。ブラジルの日系人は、さまざまな困難な経験を経て着実にブラジル社会に根づき、現在約150万人にまで増加し、ブラジルの多文化社会を構成する重要な構成員となっている。笠戸丸のサントス入港から遡ることさらに40年前の1868(明治元)年には、日本人最初の海外移住者約150人が砂糖きびプランテーション労働者としてハワイに渡った。その後、アメリカ本土にも多くの日本人が移住し、第二次世界大戦中の強制収容などの過酷な経験を経て、現在83万人(他のエスニックとの混成を含めると120万人)を超える日系人がアメリカ合衆国に暮らしている。さらに中南米、東南アジア、南洋諸島、オセアニア、中国大陸へと多くの日本人が移民した。
このような海外に渡った日本人のことを私たちはどのくらい知っているだろうか。私たちが小・中・高等学校で学ぶ教科書を紐解く時、地理教科書における若干の記述を除いて学校において日本人移民や海外の日系人について学ぶ機会は少ない。今日、グローバル化の進展の中で人の移動は地球規模の現象になっており、日本においても多くの国から労働者として、留学生として、あるいは国際結婚によって等々、多くの人が移民してきている。そのような中で、日本において「多文化共生」は大きな課題となってきている。
移民という現象は、この多文化共生を考える格好のテーマである。近代において多くの日本人が海外に移民した事実、彼らとその子孫の歴史的経験や現在の生活から、国民国家における基本的人権や市民権の問題、多文化社会におけるエスニック・アイデンティティの保持や異文化接触による文化変容の様相を学ぶことができる。また逆に、歴史の中で日本に来た外国人の歩みや、近年さまざまな目的で来日した移民の現状や問題について、日本人移民の歴史的経験に重ねて共感的に学ぶことは、これからの多文化共生社会を生きる子どもたちにとって「共生」に向けての資質を養う上で意義がある。
(…後略…)