目次
序文 先住少数民族について(綾部恒雄)
はじめに——「サハラ以南アフリカ」について(福井勝義)
第1部 北東アフリカ
解説 (宮脇幸生)
〈エチオピア〉
ムグジ ◇辺境の民へのまなざし(松田凡)
マロ ◇アフリカの山に生きる人びと(藤本武)
メエン ◇誇り高さを育む文化装置:歴史の日常化(福井勝義)
オロモ ◇近代エチオピアの抑圧された最大民族(田川玄)
マジャン ◇森に棲み、森に生かされる人びと(佐藤廉也)
ホール ◇辺境の民の抵抗とジレンマ(宮脇幸生)
チャラ ◇他民族との相克と生存戦略(村橋勲)
〈エチオピア・ケニア〉
ガブラ・ミゴ ◇難民として、ゲリラとして生きた二〇世紀(曽我亨)
〈スーダン〉
ベジャ ◇ヒトコブラクダを介した紅海沿岸域への適応(縄田浩志)
ナーリム ◇子どもから大人への道:民族間の相克の中で(福井勝義)
第2部 西・南アフリカ
解説 (竹沢尚一郎)
〈コンゴ民主共和国〉
ムブティ・ピグミー ◇森の民の生活とその変化(市川光雄)
〈ボツワナ〉
サン ◇狩猟採集民から先住民へ(池谷和信)
〈南アフリカ共和国〉
コイコイ ◇変化と多様性を生き抜く(海野るみ)
〈マダガスカル〉
ミケアとヴェズ ◇マダガスカル南西部の非農牧民(飯田卓)
〈セネガル〉
ジョーラ ◇稲作を基盤に平等主義的社会に生きる(小川了)
〈マリ〉
ボゾ ◇近代化に見事に適応した先住民(竹沢尚一郎)
〈ナイジェリア〉
イボ ◇大規模民族とエスニック・ポリティクス(松本尚之)
〈ナイジェリア・ニジェール〉
ボロロ(フルベ) ◇西アフリカ最後の遊牧民(嶋田義仁)
監修者あとがき
索引
編者・執筆者紹介
前書きなど
はじめに——「サハラ以南アフリカ」について(福井勝義:一部抜粋)
(…前略…)
地球上どこの地域でも同じように、独立した「言語」と「方言」の区別はたいへん難しい。その基準は「我々」意識と結びついており、それも政治や歴史的状況と深く絡み合っているからである。ただ、「我々X」と自称する集団には、人数的に数百人から数千人といった人たちがいる。人口数万人レベルの「民族」になると、アフリカではかなり多くなる。ただ、周囲に数十万、数百万レベルの民族がいようが、彼らはいまも「健在」である。たとえば、ウガンダ北東部のイクやエチオピア西南部におけるコエグは、「消滅の危機」に瀕しているはずなのに、「我々」意識の誇りを失うことはない。「私はコエグ語が話せるのよ」という老人に出会うくらい、母語を話せる人たちは近年とみに少なくなってきている。一度の襲撃で数百人規模の殺戮を繰り返してきた民族からすれば、とっくの昔に滅ぼされていても、と思うことがある。ところが、近隣民族との間に育まれた共存のメカニズムのもとに、それぞれの存在を認めあってきたのである。そうしたエスノシステムの視点から、「先住民」をとらえていくことが大切である。
アフリカ大陸、あるいは本書の対象としている「サハラ以南のアフリカ」の特徴は、大きく三点ある。ひとつは、なにより人類の発祥地である、ということである。「地球の先住民」なのである。第二点は、長い間「奴隷の生地」として扱われてきたことである。これには、欧米とアフリカという図式だけではなく、アフリカ大陸内の民族関係が大きくかかわっていた。エチオピアでは、イタリアに占領される一九三五年まで奴隷が存在しており、奴隷交易で富を築いた地方の「豪族」は少なくなかったのである。第三点は、アフリカ大陸はすべて、一度は植民地化された、ということである。植民地支配のシステムは宗主国によって異なっているものの、他の大陸に比較するなら、地域に根づいてきた民族社会の特性を基本的に生かしていた。
今日のアフリカは、「新植民地主義」、さらには「新奴隷主義」にさらされている、ともいわれている。本書では、誇り高く、「したたかに」生きていこうとしている人びとの姿を汲み取っていただければ、幸いである。