目次
目次
邦訳刊行によせて
日本語版によせて
謝辞
序論
第1部 理論展望
第1章 「人間」への道——女性の人権の起源と発展
第2章 いまだ果たされない責務——公的領域および私的領域における女性の人権
第3章 女性・暴力・人権システム
第4章 女性の人権の主流化——理論を超えて
第2部 女性と健康
第5章 女性の健康と人権
第6章 女児の権利
第7章 若年移住者の適応反応に見る心理的・文化的要因——ジェンダー化された反応から
第3部 女性・行動主義・社会変革
第8章 人権としての女性の権利——社会変革の主体としての女性
第9章 忘れ去られたマイノリティ
第10章 隔たりを超えて
第11章 ジェンダー・アパルトヘイト、文化相対主義、イスラム社会における女性の権利
第12章 草の根組織と女性の人権——地域と世界をつなぐ課題に直面して
第4部 女性・文化・難民化
第13章 「彼女はそこで何をしていたのか」——正当な標的にされる女性
第14章 亡命はいつまで続くのか
第15章 法文書——女性・人権・書簡体小説
第16章 「力」という鏡の前で——紛争下の女性たち
訳者解説
訳者あとがき
索引
編著者紹介・訳者紹介
前書きなど
日本語版によせて
『女性の人権とジェンダー——地球規模の視座に立って』(Women, Gender, and Human Rights: A Global Perspective)、この貴重な一冊が、今、日本語に翻訳され、日本の読者を得ようとしている。このような記念すべき瞬間に際し、原書の編者として言葉を刻む機会を与えていただいたことをとても光栄に思う。元来、文学、政治学、芸術の分野の著作物を翻訳することは、地球上の生きとし生けるものすべてが共生できる世界を夢見、ヴィジョン化することを可能にしてくれる。したがって、本書が翻訳されるということは、ある場所から他の場所へ、またある言語から他の言語へと境界を越え、「人権」というヴィジョンが、人間の相互理解と人間性の共有をめざし普遍化されうるということである。
人類の歴史において、今日ほど「人権」への関心が高まりを見せた時代はない。二〇世紀、世界はコソボ、アフガニスタン、イラクといった国々で凄惨な戦争や紛争を経験した。殊に、世紀末以降、政治的暴力が深刻化し、皮肉なことに、戦争・紛争下の女性たちは生命に悲劇をもたらす極めて残虐な役割を担わされている。私たちはこのような現実を決して忘れてはいけない。旧ユーゴスラビアでは女性たちが民族浄化のための収容所レイプを受けていることを。アフガニスタンでは女性たちが難民・避難民生活を強いられ、十分な医療も施されず、教育を受けることさえ許されない状況下で生きていることを。旧ユーゴやアフガニスタンの事例は、戦時下の女性はレイプの標的にされ、武器として利用され、さらにそれが制度化されてきたことを象徴的に物語っている。女性の人権は、有史以来、地球上のすべての地域で侵害されてきたのである。
二一世紀の幕開けと共に、再び世界はスーダンにおける戦争の悲惨さを経験した。戦禍を逃れ、シェルターや自由を求めてさまよう女性や子どもたち。そしてその一人ひとりの表情は私たちに、「人権」は、最も脆弱な人々、つまり女性と子どもを語らずしては語れないことを思い知らしめる。戦争で引き裂かれた中東、特にイスラエルや西岸地区では、テロによって過去に一万人ものパレスチナ人やイスラエル人の子どもたちが、その命を奪われてきた。このような残虐行為が永続化する中、「人権」はこれまでになく可視化されるようになってきた。この背景には、いかなる沈黙、共犯、不可視化をも断固容認しない人権活動家たちの強力な結束、そして人権活動家が世界中に移動することを可能にした輸送手段の発達、即時に緊急行動を呼びかけることのできる高度通信技術の急速な発達と普及などの寄与がある。本書は、国家、「南北」、伝統的学問領域といった境界を越えて、地球規模の視座に立ち、学際的に人権問題を可視化しようとする女性たちの並々ならぬ尽力の結集の成果である。現に、人権侵害は貧しい人、富める人を問わず起こり、ドメスティック・バイオレンスはあらゆる社会階層において起きている。
本書は、タリバン政権下に置かれた女性がどのような取り扱いを受けてきたかに関する論文を収録し、女性のエンパワーメントの一形態である教育が、「人間」になる上でいかに重要であるかを強く主張している。また、国家による暴力のみならず家庭内における暴力といった女性に対する人権侵害の特性について述べた論文もある。イスラム社会やラテンアメリカ社会特有の女性に対する人権侵害や女性の健康をテーマとした論文、女性作家による亡命と喪失をテーマにしたエッセーなども収められている。これらの一編一編は、人権の普遍性と歴史や文化の相対性との間で起こる絶えざる学術的論争を提示し、人権問題を伝えることの困難さ・複雑さを克服することへの展望を示唆している。この珠玉の論文集は、民族、階級、ジェンダーにかかわらずすべての人が生まれながらに人権を享有していることを、また私たちが完全な人間となるためには、人権が尊重され、擁護され、推進されなければならないことを明確に論証している。
今、世界はあまりにも富や権力など欲に支配された人権を主張する人が多い。また、女性や子どもなど弱い立場にある人々の人権は軽視あるいは無視され、強者や富める者の正義がまかり通っている。しかし、本来、人権とは貧しい者であれ富める者であれ、強者であれ弱者であれ、すべての人が生まれながらに享受している普遍的な権利である。したがって、「人権」を語るということは、富や権力に支配された権利から愛と人間の尊厳に基づく権利へと更生していくということである。そのような「人権」の根源的な意味を、本書に収録された論文の一編一編が読者に想起させ、二一世紀が「すべての人の人権」の確立をめざす世紀となるべきことを、そして特にジェンダーに基づく不平等を歴史的に被ってきた女性にとって必ずやよりよい未来となることを確信させてくれる。
この貴重な論文集が、堀内光子氏、神崎智子氏、望月康恵氏、力武由美氏、ベバリー・アン山本氏によって日本語に翻訳されたことで、「女性の人権とジェンダー」という重要なテーマが英語という言語の壁を越えて地球規模で投げかけられ、人権の擁護、その一点に向けて地球が一つに結合されることを希求する。本書が、広く市民のみなさんはもとより、より多くの学生や大学の教員の方々にも読まれ、人間社会全体が人権を享有していることを確信されんことを願ってやまない。