目次
はしがき(村井友秀・真山 全)
第1部 新しい脅威と安全保障体制の変化
第1章 マイケル・ウォルツァーと正戦論という問題(有賀 誠)
第2章 国連平和維持活動への要員提供に対する植民地化の影響(久保田徳仁)
第3章 試練に立つ核不拡散体制
——核テロの脅威増大(岩田修一郎)
第4章 危機管理の現代的意義(太田文雄)
第5章 海上・港湾域におけるテロリズムとテロ対策(宮坂直史)
第2部 地域安全保障の新展開
第6章 冷戦後の米国安全保障戦略
——その変遷と根源的課題(西脇文昭)
第7章 冷戦後のNATO変容と米欧関係(広瀬佳一)
第8章 ポスト冷戦期におけるロシアの対米政策
——核軍縮と核不拡散をめぐって(小泉直美)
第9章 中東における地域主義の試みとその限界(立山良司)
第10章 東アジアの紛争構造(村井友秀)
第11章 東南アジアのテロリズム
——「第二戦線」論の虚像と実像(武田康裕)
第12章 冷戦後の日米関係(孫崎 享)
第3部 国際安全保障の歴史的検証
第13章 日本とドイツの軍事思想比較
——統帥権独立の影響(川村康之)
第14章 国際連盟と第一次上海事変
——停戦交渉過程における軍事と外交のジレンマ(影山好一郎)
第15章 日本とノルウェーとの比較防衛戦略
——1980年代における脅威と抑止のグローバル化(西村繁樹)
特別寄稿 硫黄島の戦をめぐって(防衛大学校長 五百旗頭 真)
索 引
前書きなど
はしがき
平成19年(2007年)は、防衛大学校社会科学教室の管理学科および国際関係学科による教育開始から33年目にあたる。両学科は、平成12年(2000年)に学群制導入に伴い人文社会科学群内の公共政策学科と国際関係学科となったが、この2学科は、社会科学分野の隣接領域を担当しており、従前より密接な関係にある。また、平成19年は、同大学校総合安全保障研究科の教育開始から10年目の年でもある。同研究科は、戦略科学と国際安全保障の2コースを持ち、そこでは、上記2学科教官が安全保障を中心とした修士課程の教育を行っている。
創設から30周年を過ぎたこれら両学科および教育開始から10年目を迎えた研究科は、この際合同して記念論文集を刊行することとなった。しかし、単に経年の要素のみから本記念論文集刊行を企図したわけではない。安全保障情勢の大きな変化に伴い、社会科学の観点から分析し直さなければならない問題が多数生じている。かかる必要性に鑑み、安全保障に係わる諸問題を改めて整理し、それを理解するための視点と分析方法を提示することを目的として本書が刊行された。
安全保障学は、新しい学問分野である。これを政治学、経済学、社会学や法学と並ぶ独立した新分野であると認識しうるかは、なお議論がある。安全保障に関する研究が既存学問分野の雑多な集合体であるとしても、雑多なものを集合せしめる契機を探ることは、意味のあることである。本書は、こうした安全保障に関する研究の総合に向けての里程標たることを目指している。
冷戦後の新しい国際環境において、様々な分野でのグローバル化が進展する中、世界の中の日本や歴史の中の今をいかに理解すべきかが問われている。こうした関心に応え、現代の国際環境と現代日本社会の理解に示唆を与えるべく、本書は、安全保障という共通の視点からその現代的意義を多角的に考察することを目的とする。
本書は、第1分冊『現代の国際安全保障』および第2分冊『リスク社会の危機管理』から構成される。第1分冊は、ポスト冷戦期に生じた脅威と、それに応じた安全保障体制の変容を多角的に分析するもので、その第1部「新しい脅威と国際安全保障体制の変化」では、冷戦期の安全保障体制が変化を迫られている様が語られている。これを受けて第2部「地域安全保障の新展開」は、圧倒的な国力を持つ米国の動きを分析し、アジア、中東等の地域安全保障の説得的な議論を提供している。第3部「国際安全保障の歴史的検証」においては、過去の安全保障体制の失敗や問題点の今日的意義が考察される。
第2分冊は、グローバル化と技術革新に伴い、多様なリスクに晒されるに至った現代社会の危機管理に焦点をあてている。第1部「組織と危機管理」では、組織の危機管理および政策決定、ならびに政軍関係等に関し理論と実践の両面から検討が加えられている。第2部「安全保障と経済学」は、経済生活のグローバル化と安全保障上のリスクの関連が様々な角度から分析される。最後の第3部「社会的リスクと法的秩序」においては、国内社会と国際社会のそれぞれにつき、新たな状況のもとで法がいかに対応すべきかを論じている。
本書は、そのタイトルの通り、安全保障学なる学問分野の最前線を示すものであり、記念論文集の形態をもってこれを研究者、学生および市民に提示することができたことは、全関係者の慶びとするところである。
平成19年(2007年)3月
防衛大学校人文社会科学群長 村井 友秀
防衛大学校総合安全保障研究科教務主事 真山 全