目次
発刊にあたって(日本弁護士連合会会長/平山正剛)
はじめに(日弁連両性の平等に関する委員会創立30周年記念事業実行委員会委員長/小川恭子)
序章 「男子タルコト」に決別して(角田由紀子)
第1部 ここまできた女性弁護士
第1章 男女平等を求める法廷活動の原動力となった女性弁護士
第1節 男女平等を求めて提訴した働く女性たち(坂本福子)
第2節 均等法時代に(今野久子)
第3節 離婚をめぐる女性の権利を切り拓いてきた女性弁護士たち(富岡恵美子)
第4節 婚外子差別の違憲性を訴えて(吉岡睦子)
第5節 養育費制度の充実をめざして(金澄道子)
第6節 DV(ドメスティック・バイオレンス)への取組み(長谷川京子)
第7節 セクシュアル・ハラスメントへの取組み(小島妙子)
第8節 売春防止法をめぐる問題と女性の人権(渡辺和恵)
第9節 性暴力事件と女性弁護士の活動(角田由紀子)
第2章 日本の戦争責任と「従軍慰安婦」問題(大森典子・寺沢勝子)
第3章 生活者としての視点が生きる分野での活躍
第1節 消費者問題で活躍する女性弁護士たち
1 食の安全を求めて(神山美智子)
2 欠陥商品被害の救済とPL法(片山登志子)
3 消費者取引被害の救済に取り組んで(村 千鶴子)
第2節 公害・環境問題と女性弁護士たち(浅岡美恵)
第3節 医療過誤訴訟と女性弁護士たち(増田聖子)
第4節 高齢者の権利擁護と女性弁護士たち(中村順子)
第4章 刑事分野でも活躍する女性弁護士
1 「セクハラ」が流行語大賞に(西船橋駅正当防衛事件)(河本和子)
2 徳島ラジオ商殺し再審事件の冨士茂子さんと女性たち(田中 薫)
3 死刑事件の弁護人として(連合赤軍事件・連続射殺魔事件)(大谷恭子)
4 少年事件の付添人活動で活躍する女性弁護士たち(石井小夜子)
第5章 先進的分野での女性弁護士の活動
1 会社法務の現状と女性弁護士の未来(相澤光江)
2 知的財産法をめぐる分野での女性弁護士の活躍(松尾和子)
第2部 法廷内外に活躍の場を拡げていった女性弁護士たち
第1章 拡がる女性弁護士の活動の場
第1節 法廷外での女性弁護士たちの活動が生み出したもの(目々澤富子)
第2節 女性弁護士から政治家への進出
1 女性弁護士で最初の国会議員として(佐々木静子)
2 立法の現場に立って(大脇雅子)
3 弁護士から芦屋市長への転身と阪神淡路大震災(北村春江)
第3節 公的分野でも活躍を始めた女性弁護士
1 横浜初の女性会長を経て、各種審議会委員に(横溝正子)
2 司法研修所初の女性民事弁護教官として(曽田多賀)
第4節 企業内の女性弁護士(インハウスローヤー)(片岡詳子)
第5節 海外で外国人とともに仕事をして(伊藤和子)
第6節 女性の弁護士と女性の裁判官(渡辺智子)
第2章 各地で、道を切り拓いてきた女性弁護士たち
1 「DN」とは何か?——釧路で多重債務問題に取り組む(今 瞭美)
2 紋別での日弁連初の公設事務所女性所長の経験(松本三加)
3 「鶴岡灯油裁判」が人生を変えた(脇山淑子)
4 東弁の少年委活動が生んだ、子どものための初の民間シェルター(坪井節子)
5 金沢初の女性弁護士が取り組んだ女権委員会初の人権シンポ(畠山美智子)
6 京都初の女性弁護士会長として(久米弘子)
7 調停委員になれない?——神戸の外国籍女性弁護士として(梁 英 子)
8 島根初の女性弁護士は、弁護士会会長を経て法科大学院教授に(岡崎由美子)
9 福岡初の女性だけの協同事務所からの体験(辻本育子)
10 地球上のすべての人たちのかけがえのない人権を守るために(土井香苗)
第3章 弁護士会の中での男女平等を求めて(大国和江)
第3部 日弁連両性の平等に関する委員会30年の歩み
第1章 日弁連に女性の権利に関する委員会が生まれるまで(坂本福子)
第2章 委員会発足に加わった弁護士たち
1 女性の権利に関する委員会第2代委員長として(相磯まつ江)
2 男性委員の参加とその影響(神谷咸吉郎)
第3章 30年間の委員会のおもな活動
第1節 国内での活動(菅沼友子・今野久子)
第2節 国際的活動への参加(安藤ヨイ子・寺沢勝子)
第4部 資料編
1 女性弁護士に関する統計資料
2 女性の権利、両性の平等に関する弁護士会・弁護士の取組み(年表)(海老原夕美)
あとがき(日弁連両性の平等に関する委員会副委員長/角田由紀子)
前書きなど
はじめに
1.国際婦人年から30年
本年度は、1976年5月創設の日本弁護士連合会(日弁連)の両性の平等に関する委員会の30周年にあたり、本書の出版は、その記念企画である。
委員会創立前年の1975年は、国際婦人年メキシコ会議が開催された年であり、日弁連では、女性会員が300名(会員比3%)を超えた年であった。翌1976年は国連婦人の10年のスタートの年であり、国内外の女性問題への関心の盛り上がりを背景に、女性弁護士らの強い要望によって誕生したのが、「女性の権利に関する特別委員会」であった。なお、同委員会は、その後1993年に、女性の権利のみならず、広く男女平等の問題を扱う委員会である趣旨を明らかにするため、名称を「両性の平等に関する委員会」と変更して現在に至っている。
2.3人から3000人へ
ところで、日本の「女性弁護士」の歴史は、1940年の3名に始まり、1966年に100名を超え、1995年に1000名を超え、2006年に3000名(会員比13%)を超えた。なお、女性の司法試験合格者は、全体の合格者増とも相まって、ここ3年ほど、毎年350名前後を維持しており、この数は、委員会創立当時の女性弁護士総数(342名)に匹敵する。裁判官や検察官となる女性も増加しているが、それでも、毎年200名を超す女性弁護士が持続的に増加している現状は、「女性弁護士の時代」の到来と言っても過言ではなかろう。
3.男女平等法制と現実のせめぎ合い
ところで、日本国憲法のもとで約束された「男女(両性)平等」は、戦後50年余を経過してようやく1999年、男女共同参画社会基本法に結実し、この前文では、男女共同参画社会の実現を、「21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」と位置づけるなど、国家・社会をあげての総合的・持続的な取組みが進められるところまできた。しかし、社会の現実との矛盾はむしろ拡大しつつあるとさえいえる。一方、これらへの揺り戻し現象としての、いわゆるジェンダーフリー・バッシングが始まり、憲法改正論議の中では、家庭生活における男女平等を定めた憲法24条の見直し論まで登場するなど、時代が逆回りする危険をはらむ現状がある。
4.閉ざされた歴史をひらく
そこで、このように寄せては返す時代の荒波の中で、私たちは、委員会30周年の企画として、「これからの女性弁護士」を展望するために、3人から3000人に至る女性弁護士の歴史をたどることを考えた。しかし、調べてみると1957年より前の女性弁護士に関しては、その数すら公式の統計がないなど、日弁連内でも、従来、女性弁護士に対する関心がきわめて低く、資料も少ないことが、改めて明らかになった。結局のところ、歴史の専門家ではない私たちにできることは、現役の女性弁護士たちに依拠して、彼女やその周囲の仲間たちの仕事や生きざまを、生の声で書き綴ってもらうことに尽きるし、それこそが、「生きた歴史」として、後世に遺せることではないかと考えた。
5.本書の構成
本書では、序章で、「女性弁護士の歴史」を概観する。第1部では、「女性弁護士が司法に携わること」が、司法の場にどのような影響を与えたのか、その成果を検証する。第1章では、女性弁護士が、同じ女性としての共感を土台として、「人は生まれながらにして平等である」という憲法の理念を、具体的な諸問題を通じて法廷に持ち込み、世論を喚起し、判決や和解などに結実させて、一つひとつ現実のものとしてきた道筋を振り返る。第2章では、戦争責任を明らかにする運動と裁判の中での、女性弁護士の存在が果たした役割を考える。そして、第3章では、女性弁護士の「生活者としての視点」を生かした分野での活躍を特集する。さらに、あらゆる分野で活躍する女性弁護士の活動の一端を紹介する趣旨で、第4章で刑事事件・少年事件の分野を、第5章では企業法務・渉外(外国との関係)・知的財産の分野を取り上げたが、女性弁護士の活動は、これらにとどまるものではない。
第2部では、法廷の枠に収まりきらず、これを超えて活動の場を拡げていった女性弁護士たちの姿を紹介する。新憲法の新しい風を受けて、意気揚々と弁護士をめざし、さらに飛躍を遂げていった先輩女性弁護士たちの気概を肌で感じられる部分でもある。第1章では、女性弁護士が、法律実務家としての経験を土台に、法廷の内外で多様な活動を繰り広げてきた姿を紹介する。第2章では、日本列島の北から南まで、さらには地球市民としての自覚のもとに、独自の道を切り拓いていった女性弁護士たちの声を集めた。最後に、第3章で、弁護士会内部での男女平等に関する現状と課題を、日弁連初の女性副会長誕生の道筋を辿りながら考える。
なお、第3部では、日弁連両性の平等に関する委員会創立以来30年の国内・国外の活動を振り返り、巻末の第4部に、若干の資料と年表を添えた。
6.本書の役割(お詫びをこめて)
本書の出版は、時間と情報の不足と頁数の制約の下で、しかるべき人や事件も網羅されず、内容的にも偏りのあることを承知の上での暴挙である。本来登場すべくしてしなかったたくさんの方々や、十分に語りきるだけの紙幅のなかった執筆者の方々に、この場を借りて深くお詫び申し上げたい。
しかし、われわれは、ともかくも、本書を世に出すことを第一の目標とした。一般の方々には、テレビドラマとは異なる、現実の「女性弁護士」の姿を知ってもらいたかったし、研究者の方々には、不完全な本書を端緒として、弁護士研究や女性史研究を進めていただくことを、強く期待したからである。そして、有名無名の女性弁護士たちが、有名無名の女性たちと手を携えた群像として歴史の中に生き続け、来るべき女性弁護士誕生100周年(2040年)に、命の有限性を超え、こぞって参加できることを願って、本書を世に送る。
2007年3月
日弁連両性の平等に関する委員会
創立30周年記念事業実行委員会委員長
小川恭子