目次
序文 先住少数民族について
第1部 中米・カリブ海
解説(黒田悦子)
〈メキシコ〉
1 ウィチョル◇共同体の生き残りに尽くす人びと(安元正也)
2 ナワ◇農耕儀礼とフォーク・カトリシズムの諸相(山本匡史)
3 ナワ(ワステカ地方)◇社会変化のなかの女性たち(山本昭代)
4 ミシュテカ◇「ミシュテカ」民族意識の現在(野禪美帆)
5 ミヘ◇民族の運動と出稼ぎ・移住に活路を求めて(黒田悦子)
6 ユカテコ◇衰退する焼畑農耕と高揚し始めた民族意識(鈴木 紀)
7 ツォツィル◇「やわらかい文化」の継承と更新(落合一泰)
〈グアテマラ〉
8 マム◇揺れるグアテマラの現代マヤ(小泉潤二)
9 キチェ◇織りと装いが織りなす女性の世界(本谷裕子)
〈ドミニカ国〉
10 カリブ◇観光化を生かした生活の再構築(江口信清)
第2部 南 米
解説(木村秀雄)
〈チリ〉
11 マプーチェ◇異文化を駆使して民族の復権をめざす「大地の人びと」(千葉 泉)
〈アンデス(都市)〉
12 チョロ◇都市のインディオ(佐々木直美)
〈ボリビア〉
13 アイマラ◇近代ボリビアにおけるアイマラ系先住民と土地所有の文書化(吉江貴文)
〈パラグアイ〉
14 グアラニー◇先住民族女性が創りだす二一世紀(藤掛洋子)
〈ペルー〉
15 アシャニンカ◇アンデス山脈中部の東斜面の先住民(石川 毅)
〈ブラジル〉
16 パノ◇パノ系先住民集団(木村秀雄)
〈ベネズエラ〉
17 ヒビ◇多文化主義時代をきりひらく生き残りの達人たち(石橋 純)
監修者あとがき
索引
編者・執筆者紹介
前書きなど
序文
二一世紀に入り五年目を迎えている。一九九一年のソ連邦の崩壊により、米ソの冷戦構造は終焉を迎え、折から目覚しい発展を遂げてきたIT(情報技術)の時代が、政治的平和とともに華やかに幕開けしたかにみえた。華やかな期待の多くは、人類が構築してきた科学・技術に対するものであった。宇宙科学、生命科学、ナノ・テクノロジーの驚異的進歩は、ITの発展とともに、人類の古来からの夢の多くを実現させていくかにみえたのである。
しかし他方で、地球の自然、人間の環境は恐るべき勢いで荒廃してきている。空気や水の汚染、地球温暖化による氷河・氷山の溶解と海面水位の上昇、森林の破壊による砂漠化の広がり、エネルギー資源の枯渇、人口の増大と食糧不足、そして貴重な動植物の種の絶滅、狂牛病の発生、HIVやSARSのような新型ウイルスの出現も、人類による自然の秩序破壊と無関係ではないと思われる。
こうした人類文化の変化・発展と地球環境の荒廃の中で、そのマイナス面のしわ寄せを最も苛酷に被っているのが一般的に当該国民国家の中で少数民族と呼ばれている人びと、なかでも先住少数民族と呼ばれる多くの孤立的集団であろう。
先住少数民族が他の少数民族と最も異なっている点は、彼らが自らの自由な意思や合意の確認がないままに当該国家に組み込まれた人びとだということである。したがって、先住少数民族の場合、「民族自決権」が留保されていると考えることができる。先住少数民族に民族自決権が残されているということは、彼らには土地権や資源権も留保されているということであり、極めて重要な属性であるといわねばならない。国家が各自の主権と国境を不可侵のものとし、他方で、多くの国家がいくつかの政治・経済連合へと向かう動きを示しつつある現代世界で、先住少数民族の問題は、基本的人権思想をもちだすまでもなく、人類史に残されてきた深刻な未解決の課題であろう。
本シリーズは、このような二一世紀初頭における先住少数民族の状況を、国連の議決から一〇年を経た今再確認し、より多くの人びとにその情報を届け、少しでも早く、先住少数民族の社会、経済、文化的状況を、彼らの主体性において改善していく上での一助になることを願って企画されたものである。
IT革命、グローバル化が加速度的に進む現在、貴重な文化を育てて来たこれらの人びとの苦難を救っていくことこそ人類の最も緊急な責務ではなかろうか。(序文より抜粋)