目次
はじめに
第1部 グローバル化時代の移民政策
第一章 移民の導入政策
第一節 移民政策論争の再燃
第二節 移民流入史が語るもの
第三節 少子高齢化対策としての移民導入の非現実性
第四節 外国人排除論の台頭
第五節 外国人の低賃金労働者を導入すべきか
第六節 高度な人材をどう獲得したらよいか
第七節 看護・介護分野とメイド
第二章 人権を重視する受け入れ体制
第一節 人権の擁護
第二節 社会的公正の確保
第三節 非正規滞在者の正規化
第四節 外国人の子どもの権利の擁護
第五節 難民の受け入れの積極化
第2部 低賃金労働者としての外国人移民
第三章 研修生・技能実習生——ベトナム人を事例として
第一節 研修および技能実習制度の概況
第二節 失踪問題の深刻化
第三節 ベトナムの労働力輸出の歴史と概況
第四節 頻発する詐欺と搾取
第五節 労働力輸出企業の概況と海外雇用労働力管理局(DAFEL)の役割
第六節 労働力輸出企業としてのTRACIMEXCO社の事例
第七節 日本での研修生・技能実習生の経験者の事例
第八節 韓国・旧東ドイツへの出稼ぎ
第九節 今後の展望
第四章 ブラジル人移民の現状と展望
第一節 ブラジル人移民の流入史
第二節 帰国意思をもちながらの定住化
第三節 将来展望
第五章 ラテンアメリカ在住日系人は「デカセギ」をどう評価しているか
第一節 問題の所在と調査方法の吟味
第二節 調査対象三か国の概観
第三節 中間層流出論は成立するか
第四節 デカセギが日系社会に与えた影響の評価
第3部 多文化共生社会への道
第六章 多文化共生社会をどう建設するか
第一節 多文化主義の意義
第二節 移民受け入れ国三か国における多文化主義政策
第三節 日本型多文化共生社会の可能性
第四節 「住みわけ」と「潜在化」から「共生」へ
第七章 日本のムスリム社会を歩く
第一節 日本のムスリムの歴史
第二節 日本のムスリムの現状
第三節 宗教施設の活動状況
第四節 日本のムスリム社会の今後の展望
第八章 「内なる越境者」による日本的価値の変容
第一節 はじめに
第二節 多文化共生を可能にする条件へのインパクト
第三節 日本的集団主義へのインパクト
第四節 若干の付記
第九章 多文化共生社会をつくる社会運動
第一節 自治体およびNPOと外国人移民
第二節 地方分権の進展と主体としての基礎的自治体
第三節 台頭するNPOおよび市民運動
第四節 外国人労働者の受け皿としてのコミュニティ・ユニオン
あとがき
索引
前書きなど
はじめに
新しい職場を得て名古屋に転居してから、早くも二年あまり経過した。この土地で驚いたことは外国人移民の多さである。いまや世界の自動車生産の首位をうかがうトヨタの系列企業が軒をならべて操業しており、移民はそこで働くため近辺に居住する。合理的とされる名古屋人の性格から巨大なリサイクルショップが繁盛しているが、週末ともなるとその客の過半は一目でわかる移民である。スーパーマーケットも同様に移民でにぎわっている。
移民の集住は、たんに名古屋にかぎられたものではなく、東海地方全域にわたって進展している。本書第九章でみるように、「外国人集住都市会議」は基礎的自治体が都道府県レベルを飛びこえて連帯しながら行動したという点で、日本の地方自治の歴史のなかでも画期的意義をもっているが、この行動が東海地方の基礎的自治体の主導のもとになされたことは、まさに東海地方の状況そのものの要請にこたえたものであるといえる。
外国人の子どもの教育を受ける権利については本書第二章で検討するが、その擁護のために、われわれは本年「多民族共生教育・愛知フォーラム」を結成した。この組織は、ブラジル人学校や朝鮮学校など愛知県における外国人学校・民族学校の支援を当面の目標として、本年秋に「多民族共生教育フォーラム二〇〇六愛知」を開催することとし、そのための活発な準備活動をおこなっている。この活動は、一九九五年の阪神淡路大震災を契機に結成された「兵庫県外国人学校協議会」が開催した「多民族共生教育フォーラム・二〇〇五」をモデルとするものである。なお、「静岡県外国人学校協議会」も本年に発足している。
本書の取りまとめに当たって、わたしは上述したような多文化共生社会への道を模索する東海地方が放っている強烈な熱気から強い刺激を受けた。ここには、わたしがもと住んでいた関東地方とは根本的に異なる独特のオーラがある。
さらに、わたしが所属することになった職場の雰囲気も本書に大きく影響している。中京女子大学のアジア学科には現在九名の専任教員がいるが、そのうち中国人教員が二名、もと中国人の日本国籍取得者が一名、幼少年期をブラジルですごした日本人教員が一名いる。わたしも幼年期に大連で育ったから移民と考えれば、なんと過半数が移民ということになる。そのためもあってか、教員間の意見交換はきわめて活発にしかも建設的におこなわれており、異文化コミュニケーションのもつ積極的効果を確信させる雰囲気となっている。
本書はわたしの前著『日本の外国人移民』(明石書店、一九九九年)ののちに発表した論文とともに、講演草稿や放送・放映用の原稿を素材として執筆されたものであり、時期的には二〇〇〇年から二〇〇五年までをカバーしている。ただし、全面的に書きなおしたために原型をとどめていないばかりでなく、新規に加筆したところも多い。
この六年あまりは、わたしの人生のなかでもとりわけ激動の時期であった。それをなんとか乗りきれたのは、わたしを支えてくれた人びとがいたからである。その方々に心から感謝したい。
本書が多文化共生社会を開くための一助となることを、著者として切に望みたい。
二〇〇六年六月一日
駒井 洋