目次
本書の構成
第1部 ホームレス問題と定義をめぐって
第1章 ホームレス問題とは何か
1 ハウスレス問題とホームレス問題
2 トータルサポートの必要性
3 もう1つの社会へ
第2章 ホームレスとは誰か
1 「ホームレス」の定義の問題
2 ホームレス問題の社会経済構造的背景
第2部 北九州市におけるホームレス支援の始まりと展開
第3章 北九州市におけるホームレス支援の始まり
1 支援の始まり
2 「好きでホームレスをしている?」——偏見と現実
3 聴くことから
4 基礎的支援としての炊き出し
5 自立支援の始まりと自立支援住宅開設
6 就労支援
7 行政との軋轢、そして新たなる一歩
第4章 NPO法人化と「北九州におけるホームレス 自立支援グランドプラン」の作成、そして協働へ
1 活動目的の明確化とNPO法人化
2 「北九州におけるホームレス自立支援グランドプラン」発表
3 支援における2つの視点——「5つの基本理念」その1
4 自立の5本柱——「5つの基本理念」その2
5 「10の事業計画」から
6 「グランドプラン」後の協働体制の構築
7 自立生活サポートセンター発足——トータルサポートの実現へ
8 もう1つの自立生活サポート——ホームレスを生まない社会のために
第3部 北九州市におけるホームレスの状況と支援の方向性
第5章 実態調査から見たホームレスの生活状況——物質的剥奪と社会関係的剥奪
1 はじめに
2 ホームレスの数と生活の状況
3 社会関係と社会意識——関係性における剥奪
第6章 ホームレスになるまでの経緯と自立支援の方向性——公民協働のトータルサポートシステムの構築へ
1 目的
2 ホームレスになるまでの経緯
3 自立支援の方向性
第4部 ホームレス自立支援のための公民協働システムの形成と展望
第7章 北九州市における行政とNPOとの協働の過程
1 はじめに
2 これまでの北九州市のホームレス問題への取り組み
3 ホームレス自立支援法の成立
4 北九州市ホームレス自立支援実施計画の策定
5 実施計画を実現するために
6 NPOとの協働から見えたホームレス対策
第8章 協働事業としての自立支援センター——生活相談指導員の立場から
1 はじめに
2 自立支援センター入所の流れ
3 自立支援センターの働き
4 自立支援センターの状況
5 おわりに
第9章 NPO、市民、行政の「協働」システムによるホームレス問題解決への取り組み——公−民パートナーシップ論の視点から
1 公−民パートナーシップとは
2 公−民パートナーシップの成立の前提
3 公−民パートナーシップの価値・制度・過程
4 残された課題
第10章 これからの課題——あとがきにかえて
1 いのちへの支援——2つの人間観の狭間で
2 トータルサポート施設としての自立支援センター
3 協働の課題——既存の社会的援護システムにおけるパートナーシップ
4 ホームとは何か?——創造的回復をめざして
資料
1 NPO法人北九州ホームレス支援機構「北九州におけるホームレス自立支援グランドプラン」(2002年4月1日改訂新版)
2 北九州におけるホームレス問題の抜本的解決に関する要望書(2003年7月22日)
3 北九州市保健福祉局「北九州市ホームレス自立支援実施計画の概要」(2004年3月)
4 北九州におけるホームレス問題を解決するための市民協議会「今後 の北九州におけるホームレス自立支援に関する提言」(2005年2月8日)
前書きなど
はじめに
2002年8月、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が成立した。わたしたちは、この法律に基づいて実施されたホームレス実態調査を契機に「北九州ホームレス研究会」を組織し、さまざまな調査研究を行うとともに、課題解決のための具体的な提案・提言にも直接・間接に関わってきた。そのいくつかは「ホームレス自立支援の北九州方式」と称されるシステムの構築として具体化されてきた。
「ホームレス自立支援の北九州方式」の特徴の1つは、NPO・市民・行政による協働システムの形成をめざしている点にある。もちろん、そうした協働は、ホームレス問題が顕在化してきた当初から成立していたわけではない。運動体と行政との対立・抗争をへて、お互いが対抗的相補性を持ちつつ到達した一地点である。その具体的な姿について未だ検討を要する部分があることは、わたしたちも認識している。しかし、これまでのところ、それは北九州におけるホームレス問題の解決に一定の成果を挙げてきたように思われる。本書は、この「ホームレス自立支援の北九州方式」が成立するにいたった背景、過程、それらが含む諸問題、今後解決していくべき課題を、研究者、NPO活動者、行政実務者の立場から多角的に分析・紹介していくことをめざして編まれた。
また、本書は北九州市における事例をもとにホームレス問題の本質と問題解決の方途について考察したものである。当然のことながら、ここに示されている方策がそのままの形で他の地域に適用できるわけではない。だが、大阪・東京・名古屋といった三大都市圏とは事情を異にする、本市のホームレス自立支援の取り組みを紹介することは、他の同規模の地方中核都市での政策形成においても参考になる点があるのではないかと考える。
同時に、北九州市における自立支援の取り組みには、各都市の個別事情をこえた一定の普遍的要素が含まれているかもしれない。わたしたちはそのことも意識しつつ執筆に努めたつもりである。本書がわが国におけるホームレス問題の解決にいささかでも貢献できれば、わたしたちの喜び、これに過ぎるものはない。
2006年3月
執筆者を代表して
山崎克明
(本書は北九州市立大学北九州産業社会研究所の「2005年度地域づくりプロジェクト報告書」の一部として出版されるものである。)