目次
序文:ベイビーとボスのあいだで——仕事と家族生活の両立
第1章 状況と政策提言の概要
1.1 検討にあたって
1.2 仕事と家族の動向
1.3 政策スタンスの全容
1.4 親たちの雇用に対する職場の障害の除去
1.5 税・給付制度および仕事と子育ての選択
1.6 高い質の保育サービスへのアクセス
1.7 家族の形成:未来に直面して
第2章 家族と仕事:労働市場の状況
2.1 マクロ経済の状況
2.2 労働市場の基本的な状況
2.3 雇用の場にいる母親
2.4 家族雇用の形態
2.5 貧困
2.6 結論
第2章への付録
第3章 仕事と子育て責任のバランス
3.1 主要な制度的側面
3.2 所定労働時間
3.3 日本の正規雇用と非正規雇用の二重性
3.4 使用者が提供するファミリー・フレンドリー施策
3.5 結論
第3章への付録
第4章 家族の形成:就労の増加は出生率の低下を招くのか
4.1 出生率と家族のダイナミックス
4.2 雇用と出生率
4.3 家族と出生行動の変化にむけての政策対応
4.4 結論
第5章 家族と育児:誰が子どもの面倒をみるか
5.1 保育政策の目標
5.2 親休暇モデルとその取得
5.3 保育の中心的な指標
5.4 保育政策問題
5.5 結論
第5章への付録
第6章 税・給付政策:仕事と子育てのあいだの親の選択
6.1 税・給付制度の概観
6.2 税・給付制度の意義
6.3 働いていない親たちの雇用を促進する
6.4 結論
第6章への付録
ボックスのリスト
1.1 政策提言
2.1 教育水準と雇用
3.1 労使交渉と社会労働政策の発展
3.2 日本の年功制
3.3 オーストリアにおける限界雇用
3.4 日本でのパートタイム雇用の概念
3.5 使用者をよりファミリー・フレンドリーにするための公的施策
4.1 家族概念
4.2 出生率の測定
4.3 教育費と住居費は出生率に影響をあたえるのか
4.4 出生行動にかんする理論の概観
5.1 オーストリアの育児給付と親休暇の改革
5.2 財政と保育の責任
5.3 子どもの発達と保育
5.4 利用者対象の補助金を通じて効率、公正、質の向上をはかる
5.5 質の問題を解決する;アイルランドの全国保育戦略の事例
6.1 オーストリアの家族負担平等化基金(FLAF)と家族支援の条項
6.2 アイルランドの税制改革
6.3 アイルランドにおける「仕事への復帰」手当
6.4 ひとり親の扶養支援
参考文献
本報告の背景付録
監訳者あとがき(高木郁朗)
前書きなど
監訳者あとがき 本書は、仕事と家族生活の両立を目的としたOECDの調査報告の第2回目のものである。第1回調査は、オーストラリア、デンマーク、オランダを対象としている(2002年)。第2回目の対象となった国は、オーストリア、アイルランドおよび日本である。第3回目の対象となった国は、ニュージーランド、ポルトガル、スイスである(2004年)。第1、3回目の調査報告はまだ邦訳されていないが、第2回目の報告は、日本についての詳細な報告が、他の2国との比較で、幅広く検討されているという事情があり、さきに翻訳出版することとなった。 内容的には、雇用されている親たち、とくに母親の実態、仕事と家族生活への時間の配分の状況、労働市場への参加と出生率との関係、親、地域社会の双方にわたる子育てのしくみ、税および家族政策を含む社会政策の影響の諸点について、体系的かつ実証的な検討がおこなわれている。 とくに日本にかんしていえば、男性の長時間労働、かつ家族手当制度を有する職場文化と実質的に世帯単位で運営されている税・社会保障制度が、出産などを契機として母親が労働市場から実質的に引退する誘因を形成していることが明らかにされている。 本書の目的は、「仕事か子育てか」のあいだの選択ではなく、多様なかたちでの「仕事も子育ても」の選択を可能とするシステムを確立するという点におかれている。専業や自ら労働時間量を調節してしまう日本型のパートタイム労働の選択を有利にするような諸制度の改廃、ソーシャル・パートナーシップにもとづくファミリー・フレンドリーな職場文化の形成など、具体的な方法にまでたち入って提言がおこなわれている。 また、とくに強調されている点の1つは、社会的な保育サービスの供給を量・質ともに増加させることである。ここで質というのは、親たちの選択権を重視するということである。この方法のなかでは、これまでのように事業者に対する事業助成ではなく、親への助成を中心にすべきだとする提言もある。この事例にみられるように、日本の現状においては慎重な検討が必要なものもあるが、全体としては、説得的な提言となっている。 少子化とその結果としての人口減、とくに生産年齢人口の減少という大きな構造転換がはじまっている現在、また一方、労働の分野におけるジェンダー平等をいっそう推進する必要がある現在、多くの読者が本書から多様な改革を導くようなアイディアをくみ取っていただけるものと思う。(後略)