目次
プロローグ 財団、その歴史・構造・社会的役割
米国における財団の歴史/民間財団の原型、カーネギーとロックフェラー/相次ぐ財団の設立/1969年の税制改正法/米国の財団、その種別と構造/財団、その社会的役割/財団プログラム・オフィサーの役割
第1章 助成活動を意味あるものにする
助成スタイルの選択/事業形態の選択/社会的認知度の高さを選択する/優先助成分野を設定する/優先助成分野を設定するための五つのステップ/結論
第2章 助成活動における人的要素
フィランソロピーの誘惑/助成申請者の権利の章典/プログラム・オフィサーとしてどのような資質を身に付けるべきか/結論
第3章 申請者との関係構築
助成活動——関係性の上に成り立つ共同事業/確実なコミュニケーションに必要な項目/申請者との電話対応と面談/プロジェクト・ファイルの保存/同僚との関係/結論
第4章 申請書の審査
タイプ別に見る申請書/アイディアと申請書の関係性/申請書のゴーストライター/門番となるか執事となるか/優れた申請書に見られる12の特徴/活動の継続と評価/予算/事業実施能力の判断/結論
第5章 申請書を不採択とする
申請書が不採択となる四つの理由/レトリック対現実/軽率なプログラム・オフィサーが陥りやすい罠/申請不採択の連絡における品性と透明性/申請者側の苦情と財団側の回答/しつこい申請者の問題/結論
第6章 申請書への対応
申請者の期待を制御する/第一次審査/質問及び疑問点文書/Q&Cの体裁/Q&Cの作り方を工夫する/申請者を指導する/Q&Cのサンプル——真剣なパターンとユーモラスなパターン/Q&Cに対する申請者の回答/結論
第7章 現地訪問
現地訪問をすべきかどうか、それが問題だ/必然的に高まる期待/現地訪問に最適な時期/協議事項(アジェンダ)の設定/公式協議と非公式対話/トラブルの兆候/視察記録とフォローアップ/現地訪問後の申請書不採択/現地訪問におけるコンサルタントの利用/結論
第8章 推薦理由書の作成
推薦理由書の作成/成功する推薦理由書作成の秘訣/やるべきこととやってはいけないこと/結論
第9章 推薦理由書のプレゼンテーション
プレゼンテーションの戦略/「本塁打」と「第三軌条」——プレゼンテーションの明暗/質問にうまく答える/質疑応答を終えて/プログラム・オフィサーと理事会との関係/結論
第10章 プロジェクトのマネジメント
プロジェクト・マネジメント、その可能性と現実/マネジメントの落とし穴/助成事業のマネジメント・テクニック/プログラム・オフィサーによる実務サポート/コンサルタントの利用/助成金の支払い停止と助成の取り消し/助成終了の戦略/結論
第11章 プロジェクトの終了
助成を継続すべきか否か/助成先からの報告を意義あるものにする/完了総括報告書/教訓を役立てる/結論
第12章 インパクトの強化
事前にインパクトを増やす/事業実施中にインパクトを増やす/事業終了後にインパクトを増やす/結論
第13章 いかに政策に影響を与えるか
財団の公共政策恐怖症/財団にできないこと/財団にできること/非営利団体にできないこと/非営利団体にできること/政策インパクトの類型/明白なイデオロギーを持つか、イデオロギーに中立か/政策枠組みを構築する/公共政策メッセージをつくる/政策活動における関係のあり方/影響力を持つために政策を使う/公共政策と民意/結論
第14章 財団主導型の助成
財団主導型の助成、その長所と短所/財団主導型の助成事業を開始する/総合活動計画/総合活動計画のモデル/ロジック・モデル/申請依頼/戦略的広報/財団主導型の助成のマネジメント/結論
第15章 助成の倫理
フィランソロピーの七つの大罪を避けること/結論
エピローグ フィランソロピーの未来
株式市場の高騰と財団の躍進/財団とその多様性/世代間の富の移動/脅威の兆し/社会ベンチャー資本としてのフィランソロピー/フィランソロピーの未来/結論
前書きなど
はしがきはじめに 助成財団の仕事には、人材養成コースも資格検定試験もなければ、正式な研修制度もほとんど存在しない。助成活動の実務について断片的に書かれた文献はあるが、そのほとんどは、定期刊行物や雑誌・モノグラフ、もしくは年次報告書などに短い記述として散見され、体系化されているものは極めて少ない。相当の決意を持って根気強く文献に当たらないかぎり、財団スタッフが助成という仕事の全体像を把握することは難しいが、仮にそうしたとしても、プログラム・オフィサーの役割と責任について書かれた箇所はほんの僅かで、そこにも綻びが目立つであろう。内側の視点から書かれたプログラム・オフィサーの実務 本書は、プログラム・オフィサーのあらゆる職務に関し、経験に基づいて考察した初めての試みである。本書は、包括的なマニュアルでもチェックリストでもなく、能力と倫理観のあるプログラム・オフィサーになるために必要不可欠なスキルについて解説した入門書である。特に、新人プログラム・オフィサーが、その実務における基本原則について理解するのを助ける目的で書かれているが、ベテランのオフィサーにとっても、自分の仕事を見直すための材料として役立てることができよう。また、助成申請する側にいる人々にとっても、本書が提供する、内側から見た財団の業務とプログラム・オフィサーの役割を知ることは有益であると考える。 本書は、著者一人によって執筆されてはいるが、全米にある大小の財団のCEOやプログラム・オフィサー20名以上からの助言を得て、完成したものである。本書の内容は、米国の組織に焦点を当て、主として、民間助成財団の考え方をベースとしている。もっとも、その多くはコミュニティ財団や企業財団にも当てはまると言える。初めての試みゆえ、誤りや不足点もあろうことをお断りしておかねばならない。しかしながら、本書が、助成という仕事のよりよい実践について議論するきっかけをつくり、時間をかけて、一般的に受け入れられるベスト・プラクティスの基準を築いていくことに役立てばと願っている。概 観 本書は、財団の歴史、構造、社会における機能、そして財団におけるプログラム・オフィサーの役割について読者に紹介するプロローグに始まり、優先助成分野の決定、さらに助成活動における人的要素をテーマとした章が続く。これらの章の中では、例えば、「助成活動とは使命か専門職か」「どんな人物が助成活動に携わるべきか」「フィランソロピーの七つの誘惑にいかにして打ち勝つか」といった問いが投げかけられる。第3章から第14章までは、プログラム・オフィサーの基本的な業務、すなわち、申請者との関係構築、申請書の審査、申請書の不採択、現地訪問、申請事業案の推薦とプレゼンテーション、プロジェクトのマネジメントと評価、事業のインパクトの強化、財団主導型の助成など、順に取りあげる。最終章では、助成の倫理について触れ、エピローグでは、フィランソロピーの未来について展望する。 助成財団におけるプログラム・オフィサーは、いわば、貴重な資金を預かる執事のような存在であり、その資金は、しばしば、進歩と停滞、発展と衰退の違いを生み出すことを可能にする。公益のために、効果的かつ倫理的な投資を行う能力を高めることにより、その資金がもたらし得る可能性を最大限にすることは、助成財団とプログラム・オフィサーにかかっているのである。それがゆえに、私は本書を著し、読者であるあなたにお届けしている次第である。2000年1月 ミシガン州カラマズーにてジョエル・J・オロズ