目次
訳者まえがき(杉野昭博)
謝辞
第1章 イントロダクション
1. はじめに
2. 用語について
3. 本書の概要
第2章 ディスアビリティの理解
1. 10年でなんと変わったことだろう!
2. 社会学的想像力の発展
3. 比較歴史学的パースペクティブ
4. 二つのモデル
5. 社会学的テーマとアプローチ
まとめ
第3章 慢性病と障害への社会学的アプローチ
1. 病者役割
2. ラベリング論
3. 「慢性病と障害」の経験
4. 医療専門家の権力
5. 医療化
6. 障害のある身体の社会学に向けて
まとめ
第4章 ディスアビリティ理論への招待
1. ディスアビリティ分析の新しい方法
2. ディスアビリティの社会理論の発展
まとめ
第5章 ディスエイブリングな障壁
1. ディスアビリティと家族
2. 教育
3. 雇用
4. 建築環境・住宅・交通システム
まとめ
第6章 社会政策と障害者
1. ディスアビリティと福祉国家
2. 所得保障政策
3. 地域コミュニティにおける社会的支援
まとめ
第7章 政治と「ディスアビリティの政治」
1. 政治と障害者
2. 障害者の抗議行動——これは新しい社会運動か
3. アイデンティティの政治
まとめ
第8章 文化、余暇、メディア
1. 文化への社会学的アプローチ
2. 余暇と社会生活
3. ディスアビリティの文化的表象
4. ディスアビリティ文化に向けて
まとめ
第9章 ディスアビリティ社会学の展望
1. 理論——古きを捨て新しきを迎える?
2. ディスエイブリングな調査研究
3. 生きる権利
4. 展望
参考文献
訳者あとがき(松波めぐみ/山下幸子)
障害学を学ぶ人のために——日本語参考文献
人名索引
事項索引
前書きなど
訳者まえがき 本書はまず、「障害学」に関心を寄せる読者の食指を誘うことだろう。わが国でも『障害学への招待』『障害学の主張』(いずれも明石書店刊)などによって障害学への関心が喚起されているが、「障害学とはどんな学問か」という素朴な問いに対して答えられるほどには、わが国の障害学はまだ熟成していない。どちらかと言えば、障害についての幅広い関心の共有を軸として展開するアメリカのディスアビリティ・スタディーズに比して、イギリスのディスアビリティ・スタディーズはその理論体系や学問体系の整備に努力を傾けてきたといえる。したがって現時点では、障害学の「学」としての理論と方法および研究対象分野を体系的に知り得るのは、まずイギリスからである。この点が「英国流ディスアビリティ・スタディーズ」に読者を招待する理由の一つである。 イギリスにおけるディスアビリティ・スタディーズの理論については、マイケル・オリバーの「障害の社会モデル」が核となっているが、本書ではオリバー理論の紹介だけではなく、さまざまな関連する理論や視角との対比のなかで「社会モデル」を位置づけており、「社会モデル」をより深く理解したい読者の一助となろう(第2・4章参照)。また、ディスアビリティ・スタディーズの研究対象分野として、本書は、医療社会学および社会保障論との接点をまず挙げている。その意味で、本書は、イギリスの医療社会学(第3章)および社会保障論(第5・6章)における、障害研究の良質なレビューを含んでいる。イギリスの医療社会学も、障害に関する社会保障や社会福祉の諸研究も、いずれもわが国では紹介されにくい分野であり、イギリスの社会学および社会保障論・社会福祉学に関心のある読者にもぜひすすめたい。特に、イギリスではなぜ社会学と「社会政策学」(わが国では「社会保障論・社会福祉学」に該当)とが一体となっているのかという、日本の研究者にとっての「謎」を解く鍵を読者は本書から見つけるだろう。イギリスでは、さまざまな社会的格差や不平等の析出が社会学に課せられた第一の役割であり、そうした格差や不平等への対処が「社会政策学」の目的となっており、社会的不平等の診断と処方という形で両者は連携しているのである。また、近年、ディスアビリティ・スタディーズの対象領域として重要視されているのが、「ディスアビリティの政治」(第7章)と「ディスアビリティ文化」(第8章)である。これらの章では、社会学における社会運動論や政治研究およびカルチュラル・スタディーズの手法が、障害当事者をめぐる政治やメディアの分析にいかに応用されるかが示され、一般の社会運動論やカルチュラル・スタディーズに関心をもつ人たちにも新鮮な視点を与えるだろう。(「訳者まえがき」より抜粋)