目次
【もくじ】
第1回鈴木邦男シンポジウムin札幌時計台
北方領土問題
日本政府の方針と北方領土ビジネス/中川一郎と北方領土/ソ連崩壊の影響/北方領土交渉におけるランドマーク/クナッゼ提案と東京宣言/クラスノヤルスクと川奈会談/鈴木宗男が見た首脳会談の舞台裏/森元総理とプーチン大統領の絆/〝ヒキワケ〟と〝ハジメ〟/森元総理の秘めた想い/現在の北方領土と今後の展望/安倍総理のロシア観
対談 鈴木宗男×鈴木邦男
第2回鈴木邦男シンポジウムin札幌時計台
愛国・革新・アジア
日本近代における右翼思想/〝明治維新〟はなぜ〝明治革命〟ではないのか?/〝一君万民〟の思想/フランス革命と明治維新の違い/永遠の維新者、西郷隆盛/明治の武装闘争と言論闘争/日本右翼の源流〈玄洋社〉/なぜ右翼はアジア主義なのか/煩悶とユートピア思想/農本主義コミューン/なぜ右翼はルソーが好きなのか?/昭和維新テロ・クーデターの論理
対談 中島岳志×鈴木邦男
前書きなど
あとがき
「鈴木邦男シンポジウムin札幌時計台」は、始まったばかりだ。それなのに、もう本になるという。驚いた。「本にしましょう」と柏艪舎の山本光伸代表は言っていたが、ずっと先の話だと思っていた。「時計台シンポジウム」が始まったのは今年(二〇一三年)の四月だ。まだ半年だ。一年くらい続けてそれからゆっくり本作りに取りかかるのだと思っていた。「でも一、二回で、もう一冊の分量になります」と言う。そしてゲラが送られてきた。本当だ。一回が長時間だ。それに、内容が濃い。刺激的だし、面白い。これは、ひとえにゲストの先生方のおかげだ。
「時計台シンポジウム」では、まずゲストの先生に四十分ほど講演してもらい、その後、僕と対談。さらに会場の人からの質問を受ける。それで三時間だ。ゲラを見て驚いたが、僕は「対談」というよりも、僕も会場の人と一緒に聞いている聴衆だ。そして、会場の人を代表して、ゲストの先生に質問し、話を聞いている。それだけ、ゲストの講演が素晴らしかったからだ。
今まで四回のシンポジウムをやっている。第一回目は四月九日(火)でゲストは鈴木宗男さん。第二回目は六月十一日(火)で、中島岳志さん。第三回目は八月十三日(火)で山口二郎さん。第四回目は十月十二日(土)で、藤野彰さん。そのうち、鈴木宗男さんと中島岳志さんの分をまとめたのがこの本だ。ゲストの熱気ある講演が、そして満員の会場の雰囲気が伝わってくると思う。当日の様子が忠実に再現されている。
ゲストの先生方が素晴らしいし、刺激的で魅力がある。だから毎回、予約だけで満員になる。ゲストの力だ。又、主催者の柏艪舎の山本代表を初めとした全社員の力だ。さらに司会をしてくれている中尾則幸さんの力だ。又、本を見てもらえば分かるが、写真が実にダイナミックで、迫力がある。カメラマン小森学さんの力だ。勿論、毎回、会場に足を運んでくれる人々の力も大きい。多くの人々の力によってこの「時計台シンポジウム」が続けられてきた。そしてその一回、二回分がこうして本になった。嬉しい限りだ。
そうだ。「会場の力」もある。これも大きい。札幌時計台は観光名所だし、誰でもが知っている。僕も何回も来ていた。しかし、二階にこんな素晴らしいホールがあるとは知らなかった。いや、外から見たかもしれないが、一般の人々に貸し出しているとは知らなかった。「時計台ホールでシンポジウムをやりましょう」と山本代表に言われた時も、「えっ! 出来るんですか? 借りられるんですか?」と思わず聞いてしまった。実際に音楽会や講演会などで、よく使われている。
「演武場」と書かれているが、教会を思わせるような荘厳な雰囲気がある。百年以上も経つ。歴史を感じさせる。百五十人ほどが入る。一度来たら、これは病み付きになる。何度も来たくなる。それで借りたい人が殺到している。相当先まで予約が一杯だ。柏艪舎でも、かなり先まで予約をとっている。十一月は小磯修二さん。一月は原田宏二さん。三月は石川明人さん。五月は伊東秀子さんが決まっている。半年先まで予約が入っているシンポジウムなんてなかなかない。僕も初めてのことだ。
主催者の柏艪舎との縁だが、実は比較的新しい。新しいが深いものがある。四年前、突然「本を出しませんか」と手紙が来た。全く初めてだが、僕は即刻、「ぜひお願いします」と返事をした。この出版社は札幌に本社を置いて、意欲的な出版活動をしている、と知っていた。又、三島由紀夫の「楯の会」と、その後についての力の入ったルポを出した出版社だ。それが特に印象に残り、覚えていた。『火群のゆくへ―元楯の会会員たちの心の軌跡』だ。書いた人は鈴木亜繪美さん。監修は田村司氏。二〇〇五年十一月二十五日発行だ。三島事件からちょうど三十五年の時だ。「楯の会」の人たちを訪ね、全国を取材し、その後の「楯の会」会員の思い、生活を詳細に書く。これだけの本がよく書けたものだと思った。だって、「楯の会」の人たちは、一切語っていない。取材に応じて来なかった。だから事件については、外部のライターが、あくまで外から三島事件を伝えたものばかりだ。ただ、この本だけが例外だ。「楯の会」会員たちの生々しい証言がある。〈内からの証言〉であり、貴重な「歴史的資料」になっている。なぜ、そんな奇跡的なことが出来たのか。亜繪美さんの努力、執念がある。それと、監修をした田村司氏の力があった。実は、田村氏は元「楯の会」の会員だ。そして親しみやすい人柄で、会員の間に人望があった。その田村氏が「ぜひ取材を受けてくれ」と全国の会員に声をかけた。田村氏とは僕は学生時代から知り合いだ。とても明るいし、人を魅了する。「田村から頼まれたのなら、仕方ないな」と皆、引き受けた。これは三島事件、楯の会については飛びっきりの貴重な本だ。歴史的資料として長く残るだろう。
そんな印象もあったので、「本を出しませんか」と言われた時も即座に引き受けた。光栄だと思った。山本代表と初めて会った時、「実は田村司とは従兄弟なんです」と代表は言う。驚いた。全く知らなかった。目に見えない深い縁があって、僕も引き寄せられたのだと思った。そして、二〇〇九年十一月二十五日に発行されたのが、『日本の品格』だ。本の帯にはこう書かれている。〈全ては愛に始まる。日本への熱き想い、日本を越える深き想い…〉。今まで僕は六十冊ほど本を出しているが、それらとはガラリと変わったスタイルの本だ。何だか、ちょっと恥ずかしい。甘いんじゃないかと思った。それから四年後、柏艪舎から第二弾を出した。今度も、型破りの本で、タイトルも驚きだ。『秘めてこそ力』だ。何か「秘めてこそ愛」を連想させるし、恥ずかしい。「いや、これこそ鈴木さんの生き方をピタリと言い表わした言葉ですよ」と山本代表は言う。そうかな、もっと荒々しく、そして失敗ばかりの人生だったような気がする。「秘めてこそ」だと言えるほど綺麗なものではない。だが、この本を書きながら、自分の人生を振り返ってみると、なるほど、どこかで「秘めてこそ力」を目指してきたのかもしれない。恥ずかしいので、自分から口に出したことはなかったが……。自分のことは案外、自分では分からないものだ。自分の内心を山本代表に見透かされたようで驚いた。
この二冊の本を出したところで、この出版を踏み台にして始まったのが、「鈴木邦男シンポジウムin札幌時計台」だ。二ヶ月に一度、札幌時計台で、ゲストの先生を呼んで講演・対談をする。「統一テーマはこれにしましょう」と山本代表は言う。〈「日本の分」について考える〉だ。含蓄があるし、壮大なテーマだ。北海道で活躍している先生方に来てもらって話を聞き、対談している。数年前から西宮で「鈴木邦男ゼミin西宮」をやっており、その報告書も二冊出ている。それも刺激になったことと思う。
この「時計台シンポジウム」の第一回目は、この人をと皆の意見が一致した。鈴木宗男さんだ。北海道を代表する信念の人だ。行動の人だ。今まで何度も会っているし、去年、僕がコメンテーターをつとめていた文化放送に何度も出てくれた。明るいし、話が分かりやすい。同じ鈴木なので、「宗男さん」「邦男さん」と呼び合っている。「邦男さんとは兄弟のようなものですよ」とも言ってくれた。光栄だ。「もしかしたら、遠い親戚かも知れませんね。郷里は同じなんだし」と言う。エッと思ったら、宗男さんの郷里は宮城県だという。お父さんの代に北海道に渡ってきた。僕も宮城県の仙台だ。宗男さんのお父さんは、郷土の英雄・伊達政宗からとって「宗男」と名付けたという。
そうか、戦国の英雄・伊達政宗か。まさにピッタリだ。いろんな困難に遭いながら、次々とそれを打ち破って、「天下取り」へと突き進む。似ている。それに、政宗が出来なかった天下取りの夢を、宗男さんはかなえてくれるかもしれない。宗男さんには大きな試練が与えられた。獄中体験だ。でも、それを持ち前の明るさと行動力でプラスに転換させた。政治家は普通、獄中体験をしたら、ガックリとし、力を失い、まわりからも見離される。ところが宗男さんだけは例外で、出獄したらかえって人が集まり、「新党大地」も、かえって大きくなった。こんな政治家は今までいなかった。「時計台シンポジウム」でも、「ここまで喋って大丈夫か」と、こっちが心配になるほど大胆に喋ってくれた。そうか、外交にしろ、国際政治にしろ、〈人間〉で動いているのだと思った。嘘のない、まっ正直な人だからこそ、外国の政治家に好かれる。ストレートに相手の懐に飛び込む。サウナでの「外交」や、男同士の接吻など、初めて聞く話が多く、興奮した。こうした、それこそ裸の付き合いの中で、政治は動いている。〈宗男ワールド〉を垣間見た思いだった。
第二回目のゲスト、中島岳志さんも行動的で魅力ある人だ。学者の枠に収まらない。「リベラルな保守」を自任するが、内心の思いや憂いは熱い。マグマのようだ。講演もまるでアジ演説のようだった。最近は、戦前の右翼テロリストのことを取り上げ書いている。安田財閥の安田善次郎を刺殺した朝日平吾、そして血盟団事件の人々……。これら煩悶青年たちへの思い入れ、共感もある。大学の先生として、そこまで踏み込んで大丈夫なのかと、こっちが心配になる。ハラハラする周囲の驚き、心配をむしろ楽しむかのように中島さんは突っ走る。僕は四十年以上も右翼運動をやり、右翼の思想・行動については、ほとんど知っているつもりだったのに、中島さんから右翼について教えられた。隣にいて、「個人授業」を受けている感じがした。贅沢な授業だった。
「時計台シンポジウム」をまとめた本の第一弾として、この二人は最もふさわしい。こんなに刺激的で、魅力的な話はなかなか聞けない。その会場の熱い興奮が、そのまま詰まった本になったと思う。これは自信を持って言える。鈴木宗男さん、中島岳志さんのおかげだ。ありがとうございます。又、司会をやってくれた中尾則幸さんもお世話になりました。柏艪舎の山本代表、可知佳恵さん初め社員の皆さま、そして会場に来てくれた多くの人たちに感謝します。さらに、今、この本を手に取っているあなたにも。本当にありがとうございました。「鈴木邦男シンポジウムin札幌時計台」はまだまだ続きます。この本も、さらに第二弾、第三弾と続きます。今後ともよろしくお願いします。
二〇一三年十月二十一日 鈴木邦男