目次
はじめに
第Ⅰ部●読みによる戯曲研究の射程
第一章 森鷗外「仮面」論―〈伯林はもつと寒い......併し設備が違ふ〉
一/二/三/四/五/六/七/八
第二章 岡田八千代「黄楊の櫛」論―鷗外・杢太郎の影
一 劇作家としての八千代について/二 八千代戯曲の個性と「黄楊の櫛」/三 作品論への視界/四 おつなの性格造型について/五 私は私でいたい―おつなの悲劇/六 「和泉屋染物店」との響き合い
第三章 岸田國士「沢氏の二人娘」論―菊池寛「父帰る」を補助線として
一 作品論のモチーフと仮説/二 「父帰る」への通路/三 愛子はなぜ家を出たのか/四 バガボンドの悲喜劇
第四章 井上ひさし「紙屋町さくらホテル」論―〈歴史離れ〉のドラマトゥルギー
一 はじめに/二 作品観の問題/三 長谷川清のつくられかた/四 〈戦争責任〉の中身/五 〈天皇陛下の名代〉から〈亡くなった人たちの名代〉へ/六 「さくら隊」の〈歴史離れ〉について/七 新劇と井上ひさしの劇/八 おわりに
第Ⅱ部●読みのア・ラ・カルト
第一章 谷崎潤一郎「お国と五平」
一/二/三
第二章 横光利一「愛の挨拶」
一/二/三
第三章 矢代静一「絵姿女房―ぼくのアルト・ハイデルベルク」
一 作家的自立に関わる側面から/二 典拠を視野に入れて/三 恋ゆずりのいきさつ/四 「絵姿」の意味/五 自己決定のかたち
第四章 田中千禾夫「マリアの首―幻に長崎を想う曲」
一 その魅力について/二 忍と鹿の関係について/三 「白鞘の短刀」の意味/四 神話の呪縛を超えて―忍の物語/五 鹿とは何者か
第五章 渋谷天外「わてらの年輪」
一 松竹新喜劇と「わてらの年輪」/二 二都(三都)物語の世界/三 老いらくの恋の波紋/四 八重という女/五 どんでん返しの奥行き/六 人生......この喜劇的なるもの
第六章 恩田陸「猫と針」
第Ⅲ部●演劇史・戯曲史への視界
第一章 近現代演劇史早分かり 上・下
上―旧劇から新劇へ―
一 〈演劇的近代〉の幕開き/二 活歴劇と演劇改良会/三 新派劇の発生と成熟/四 新劇の誕生/五 草創期の近代戯曲/六 大正期の演劇
下―戦前から戦後へ―
一 築地小劇場開幕を中仕切りとした展望/二 プロレタリア演劇をめぐって/三 築地小劇場の分裂/四 戦時下の演劇/五 新劇の戦後/六 戦後の戯曲をめぐって/七 小劇場運動以後
【参考文献】
▼演劇一般・日本演劇全般/▼戯曲・評論関係の基本的なテクスト/▼近代(および現代)演劇の展開にかかわる通史的なもの/▼戯曲史関連/▼当事者の回想による演劇史談/▼作家論・演劇論その他/▼資料・年代記など
第二章 演劇と〈作者〉―山本有三の場合
一 はじめに/二 ある挫折について/三 〈劇作家〉をめざして―「生命の冠」まで/四 歴史劇への移行が意味するもの
▼補注 山本有三戯曲年表
第三章 〈演劇の近代〉と戯曲のことば―木下杢太郎「和泉屋染物店」・久保田万太郎「かどで」を視座として
一/二/三/四/五/六
初出一覧
あとがき
索引[書名・人名・事項]
前書きなど
ハウツーで教え、また教わるような読みの方法は在り得るかもしれないが、自立した個々の作品の味解にそうしたものがどこまで役立つのか疑わしい。また方法への関心がすなわち読みへの関心ではないだろう。プロットとストーリーを区別するセンスさえ体得していれば、むしろ戯曲のことばを前にして「なす術を知らない」思いにとらわれてこそ、読みへの意欲は動き出すに違いない。拙著の題は「戯曲を読む術(すべ)」と読んでいただきたい。所収の作品論は何れも作品を前にした際の徒手空拳の思いから始まっている。作品を読み解く「術(じゅつ)」は、個々の作品のありように即してそのつど編み出されるしかない。本書の内容は基本的に模索の集積であり、一般的な読みの方法を説こうとしたものではない。...「はじめに」より