紹介
我々はまだ『古事記』を解読していない。
本居宣長以来の〈訓読〉に影響を受けた解釈には、
未開拓の謎が残されている。
『古事記』文脈に隠された文字では表現し尽くせないメッセージを、
「色名・色彩語」を鍵に〈色対偶〉という独自の視点で解読。
『古事記』全文脈の再構築を図る契機とする。
『古事記』解釈に、新たな可能性を提示する書。
【推薦文】
●ドナルド・キーン
本居宣長以来、「古事記」の研究家は、なるべく難しい原文を解読しようとしたが、まだ未知の領域がかなり残っている。浅野良一は自分が発見した方法で、「古事記」の難点に新たな光を放った。これは将来の研究に相当な影響を与えるだろう。
●子安宣邦
『古事記』を宣長の呪縛から放れていかに読むか。著者十二年の専心は、この漢字書記テキストから「色対偶」的意味の重層を鮮やかに解読する。
目次
はじめに
凡例
第一章 『古事記』成立の背景
1 『古事記』はいかに発想されたか
2 危機感をバネとしている『古事記』
3 幻に終わりかねなかった『古事記』の撰進
4 安萬侶の任務と文体の決定
5 日本語による表現の訴求
6 安萬侶の実質的な役割
7 「古語」をもって未来を語る
第二章 訓読によって『古事記』は読めるか
1 『古事記』の読解には定説がない
2 半世紀前から批判されていた〈訓読〉
3 日本語志向の文として読む
第三章 発語としての「天地」を検証する
1 「天地」を「アメツチ」とよむ根拠はなにか
2 古写本は「天地」をどう読んだか
3 日本と中国とでは漢字・漢語への対応を異にする
4 『古事記』の構文は漢籍に学んでいる
5 『古事記』の叙述は対偶的に展開される
6 漢籍から触発された「天地」の観念
第四章 『古事記』における色彩語の発見
1 『古事記』に特有の四原色
2 四原色は二つのグループからなる
3 「赤」の系譜
4 「靑」の系譜
5 自然に由来する「赤」と「靑」
6 「白」の系譜
7 「黑」の系譜
8 「白」は「黑」と構造的にかかわる
9 〈色空間〉としての『古事記』の世界
第五章 色と色とによる対偶表現
1 宣長の視野にはなかった色の対偶
2 赤ー白の〈色対偶〉をめぐって
第六章 〈色対偶〉と〈双対〉
1 ヤマトタケル説話と色対偶
2 ヤマトタケル説話と〈双対〉
3 〈双対〉を欠いていたヤマトタケル
4 〈色空間〉における根源神・天照大神
5 ヤマトタケルの自滅と色対偶
6 ヤマトタケルはなぜ白鳥となり、天空に消えたか
7 イハレヒコ説話とヤマトタケル説話
第七章 色対偶の起源を探る
1 四つの基本色と対偶法の結びつき
2 呪性とかかわる色の対偶
3 呪術の発展型としての歌謡にみる色対偶
第八章 大枠での色対偶/細部に働く色対偶
1 細部に働く赤ー靑の色対偶
2 紅ー靑による色対偶の秘密言語性
3 細部に働く白ー黑の色対偶
第九章 色対偶メディアの展開
1 靑にかゝわる色対偶をめぐって
2 赤にかゝわる色対偶をめぐって
3 生命力の根源色「赤」と「靑」
4 「赤」と「靑」とが対峙する
5 靑ー靑による別種の色対偶
第十章 色対偶メディアの表象
1 色対偶メディアを開示する
2 日本語史における色対偶メディア
3 色対偶の流行性
第十一章 八世紀における色対偶メディア
1 朝賀にみる色対偶による演出
2 改元・譲位に利用された色対偶
3 『續日本紀』における基本色と色対偶
4 忘れられた『古事記』/忘れられた色対偶メディア
第十二章 『古事記』における日本語の形成
1 『古事記』の書記法をめぐって
2 「高天原」の出現と色対偶
3 『古事記』の表現における重層性と階層性
第十三章 無文字言語から書記する
1 無文字言語における世界把握
2 経験知によるネイティヴ・イメージ
3 ヤマトにおける地歴的な様相
4 大和・原初の相貌
5 国家と風土
6 制度と自然
付記--現代にみる色対偶
八世紀に現われた祥瑞と色彩語(『續日本紀』)
あとがき