内田裕介さんの書評 2018/02/17 1いいね!
ある種の絶望感を含んでいるタイトルに興味があって手に取った。
しかし、昨今TVや新聞を賑わす「冷たい」出来事は縷々つづられているが、「正体」についての考察はほぼ、ない。
たとえば、イスラム国の取材中に拘束されて殺害されたジャーナリストについて、世論が冷たい反応をした件。
日本の世論が「そんなところに行く奴が悪い」という冷たい反応だった、と指摘はしているが、なぜ、日本人がそういう反応になってしまったのかは論証がない。
(ちなみに、そういう冷たい反応だけではなかった、とぼくは記憶している)
ほかにも、なんの証明もなしに東條英機は自決しなかったので卑怯者だといい、大正時代がいちばんよかったという。
東條英機なんて、自ら恨みを持っているはずもなく、会って話をしたこともない歴史上の人間のことを、どういう料簡で非難する(批判ではない)必要があるのか、その意味がわからない。
あなたにはなんの関係もないだろう、と思う。
利害関係がなくてもどうしても批判したいモチベーションがあるなら、徹底的に調べつくして、瞼の裏に本人をすえて非難すべきではないか。
著者が東條非難の唯一の根拠とした「生きて虜囚の辱めを・・・」のくだりは、言葉の裏に別の意味、解釈がある。知らぬはずはなかろうが・・・
また、大正時代が素晴らしい、というのも、別に「好き」はかまわないが、平成の最後の今よりも「良い」というなら根拠がいるだろう。しかしなんの論拠も提示されない。
大和和紀の「ハイカラさんが通る」のファンタジックなイメージが現実だったならいいんだが、大正、昭和はまだ東北地方は冷害による飢饉で苦しんでいた。
婦女子の身売りも茶飯事だったとの記録が多数ある。
そしてそれが二・二六事件から太平洋戦争までシームレスにつながっていった。そのことを知らぬはずもないかろう。
仮説の裏付けをしない単なる印象論という意味では、著者が批判するTVのコメンテーターとなんら変わらないと思う。
ちゃんと裏をとらず、第一印象の好き嫌いをそのまま善悪の価値判断に転換する。
最近はやりの「反知性主義」というタームを(懐疑的に)調べているが、なるほど、これが反知性(主義)か、と思った。
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